マイナスのストロークは返ってくる

「人を呪わば穴二つ」とは、平安時代に活躍した陰陽師が、敵を呪い殺そうとするとき、呪い返しの術に遭って自分も死ぬことを覚悟し、自分と敵の2つの墓穴を掘っておいたことから出来たことわざ。人を貶めようとするときは、共倒れの覚悟が必要だったんですね。

非科学的でオカルトめいた話ですが、陰陽師は歴とした官職でしたし、史書大鏡今昔物語集宇治拾遺物語、十訓抄といった古記録にも記されている事実。絵空事として片付けられません。

中世の日本のみならず、英語にも「人を呪わば穴二つ」と同じ意味のことわざがあるくらい、「人を呪わば穴二つ」は人間社会の的を射たことわざです。chickens come home to roost.(鶏はねぐらへ帰る)

ことわざは、人々の生活体験が、教訓や知恵を含んだ短い言葉となって、古くから言い伝えられてきたものですから、非科学的であっても、真を突いていることが多い。

天に向かって唾(つば)を吐けば、自分の顔に降りかかってきますよね?これは重力の作用です。
一方、ことわざで「天に唾(つばき)す」というと、他人に危害を加えようとすれば、自分にも災いが降りかかってくることを意味します。「天に向かって唾」「天を仰ぎて唾す」「寝て吐く唾は身にかかる」「お天道様に石」といったバリエーションまで豊富にある。みんな、同じことを考えていたんですな。

同じく「天に唾す」という意味のことわざで、自分の犯した悪行で自分自身が苦しむことを「身から出た錆」

同じく、天は悪事を見逃さないから、悪行には必ず天罰が下ることを「天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず」

ことわざのみならず、経典(法華経)では、自分の悪業の報いを「自業自得」といいます。
同じ意味の英語のことわざでは、As you make your bed, so you must lie on it.(自分で敷いた床の通りに寝るしかない) 

まだあります。過去の行為の報いとして、当然の結果がもたらされることを「因果応報」。
同じ意味の英語のことわざでは、As you sow, so you reap.(あなたが蒔いた種は、あなたが刈り取る)

因果応報には、善悪二つの意味があります。
悪いことをすれば悪い結果が待っていることを「悪因悪果」、善いことをすれば善い結果が待っていることを「善因善果」
同じ意味の英語のことわざでは、Praise makes good men better and bad men worse. (善人を褒めればますます善くなり、悪人を褒めればますます悪くなる)

この善因善果のことを、中国の哲学書淮南子(えなんじ)」では、「陰徳あれば陽報あり(陰で善いことしていれば、善い報いがある)」と記しています。

以上のように、歴史、オカルト、宗教、思想などの幅広い分野で、昔から、洋の東西を問わず、マイナスのストロークを放てば、マイナスのストロークが返ってくると訓えています。
交響曲「運命」や「第九」で知られるベートーヴェンも、こう言い遺しています。「憎しみは、それをいだいた人間の上にかえってくる 」

あなたの放ったストロークがあなたへ返るストローク・リターン(StrokeReturn)は、科学で証明される作用反作用ではなく、人類の叡智が立証してきた真実といっていいでしょう。